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猪俣高校一年D組わけありクラス
‐ゆうきとゆき‐






終章  プロローグ




 それから巡ってきた最初の休日。
 僕はふたたび雪のもとへ足を運んだ。雪は不思議そうに言う。口づけを交わしたあの日から、体の調子がいいと。
「たぶん奇跡が本当に起こったんだ」
「愛の、奇跡ね。おまじないのお陰かしら」
 かあっ、と顔の奧が熱くなる。どうも、あれから雪は感情をストレートに表現するようになった気がする。さすがにふたりっきりのときにしか言わないけれど、言ってから本人も真っ赤になって照れたりする。言わなきゃいいだろうに、とも思うが、それもまた雪の魅力のひとつだと思って受け入れられる。
 要するに、僕は雪にベタ惚れしているらしい。
 まだまだ本調子ではないけれど、外へ連れ出すには充分と判断して、僕は今日、雪を誘いに来たのだった。
「――と、いうわけだけど……行く?」
「もちろんよ。よく私を誘ってくれたわ」
 着替えてくるから待ってて、という声に応じて、僕は屋敷の外、門の前で待つことにした。やがて勝手口から出てきた雪。ふとした思い出の匂いが鼻腔をくすぐる。あの頃とは、状況も関係もちがう。いい方向にちがう。急に嬉しくなった。
「なあに、にこにこして」
「君といると、本当に、楽しいんだ」
 自転車にふたり乗りをして、坂を一気に下って駅前までを休まず突進。到着したとき、四人はすでにそこで待っていた。
 不思議だけど頼れる友達、三条賢治。どうやら最近ひとりの女の子が気になるらしい平田雅彦。なぜかいつも言葉に重みのある村木祥子。
 そして最高の友達、南真希。
 四人の輪の中に僕も加わった。一瞬、ためらいを見せた雪に手を差しのばす。こうして六人。僕がいつかみんなに頼んだこと。夢みた情景がいままさにその場にあった。
 僕は嬉しくなって笑った。雪も笑った。みんなも笑った。
 これから、はじまっていくのだ。
 雪の体調はこれからさらによくなっていく。体が弱かったがゆえに持つことのできなかったもの、やりたくてもできなかったこと、それらもまたひとつひとつ手に入れていける。恋や人生が、新たにはじまっていく。僕はその手助けができる。
 見上げた空にはわずかに雲があった。けれど太陽もそこにはあった。どこまでもどこまでもつづく空は、雲の白が加わってより青々しく見えた。途切れることのない光の中で、嘘つきがお嬢様に見せている奇跡は今日も前へ進んでいくのだ。
 たぶん、これが僕と雪の物語のプロローグなのだろう。
 雪の両親のように、たくさんのエピソードをたずさえて未来の光の中へ進んでいく。一緒に泣いて、笑って、楽しんでいける。
「勇樹。手を繋いでもいい?」
「え、ああ、うん」
 そっと雪が僕の手を取って握った。温かい体温が伝わってくる。
 僕は彼女と一緒にどこまでも往ける。そう思えることと、たぶんそれが真実であることが、たまらなく、そう、たまらなく嬉しい。
「あ、こいつら手ぇ繋いでる!」
「らぶらぶだなチクショウ」
 うるさい外野の声は祝福の声。無視して遠くを見渡せば、深緑の木々が気持ちよさそうに風に揺れていた。













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猪俣高校一年D組わけありクラス ‐ゆうきとゆき‐

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